夢だの空想だのディペイズマンだの、いわゆる超現実的な光景というのが大好物だが、あるもんだね、日常にも。非日常ってやつが。
まあまあ、とりあえずこいつを見てくれたまえ。
なんということでしょう。ビニール傘が電線に引っかかってらあ。
雲ひとつない快晴の青空に、真白な傘がよく映える。悪くない光景だ。
なぜこんなことになってしまったのか、甚だ疑問は尽きないが。
きっとこういうことなんじゃないかしらん。
電気工事士が作業をする際に傘を差していて、雨が上がったからと作業中にかけておいたものを、そのまま置き忘れたのかもしれない。
あるいは、使い古されてもはや捨てられる運命にあったビニール傘が、一念発起して決死の大脱走。風に揺られて空を飛び、たまたまあの場所で腰を下ろしていたのかもしれない。
目と足は止まったが、妄想は止まらない。それほどまでに異様な光景というのは、人々の空想を釘付けにする。だから面白い。やめられない。
もう一個ある。
アスパラガスだ。
遊歩道の植え込み部分に放置されたアスパラガス。さしずめ「ど根性アスパラ」だろうか。自生しているわけではないが。
でもこれは大体察しがつくね。大方ピクミンが回収するお宝の1つだろう。でないと説明がつかない。
買い物帰りにちょっと疲れたマダムが植え込みの垣根に腰掛けて、さてもう一踏ん張りと立ち上がった拍子に買い物袋から抜け落ちたとか、そんな荒唐無稽な真相など断じてあり得ない。
そう考えるとあの傘も、ひょっとしたらお宝の一種なのかもしれない。
高いところと電線という立地は、黄ピクミンにもってこいではないか。
あーなるほど、そういうことなのね。
つまり私は日常の中で、ゲームの世界の一端を見たのだ。
驚くべきことにゲームの世界と我々の世界は連続して存在している。そうに違いない。
さしずめあの2つの光景はゲームの裏側の世界であって、本来人間が干渉してはいけない、もとい見て見ぬふりをしなければならない部分だったのかもしれない。ちょうどテレビ番組の裏側のような、あの感じ。
まもなくここにはピクミンがやってくる。あるいはオッチンかもしれないが。いずれにせよ彼らと鉢合わせる前に、さっさとここから退散しなければならない。それがゲームをプレイする人間にとっての、最大限の礼儀だと思うのだ。
彼らの姿を一目見てみたい。そんな気持ちを押し殺して、私は止まった足を動かした。
〜後日談〜
数日後、もう一度あの場所へ行ってみたら、傘もアスパラガスも綺麗に無くなっていた。
どうやらピクミンは使命を全うしたらしい。
全く微笑ましい限りだが、少し寂しい気持ちにもなった。
いわば晴れた日に傘を差すような気分だよ、おそらくね。