海辺のドーナツ1

Story

2123.7.19 (月)
今日、験体RDB-04が無事、生まれた。
性別はメス。体温・血圧・脳波をはじめ、検査値は全て正常。
本研究の最高責任者として、僕が選ばれた。未だ誰も成し遂げていない人間の研究だ。極めて光栄に思う。

(中略)

彼女を験体名で呼んだところ、「もっと可愛い名前で呼んでほしい」と、強く反発を示した。
験体RDB-04が人工生命体研究の最高点(Meridian)に到達するよう願いをこめて、彼女を”Ann Meriday”と命名する。
名前を欲しがることをはじめ、彼女は今までの験体とは異なり、「個」に対する強い執着を示す節があるようだ。「個」は人間が人間であるために欠かせない要素である。彼女がアイデンティティを確立することは、人工的に作られた人間が、我々のような真の人間に一歩近づいた何よりの証拠だ。本研究は着実に、更なる成果を生み出している。

(中略)

以上のように彼女は、外見・内面ともに我々人間と何ら遜色ない特徴を有していることがわかった。験体RDB-04は、大いに期待できる研究材料である。
「歴史上で初めて完璧な人間を作り出した人間」として偉大な功績を残すため、必ずやこの研究を成功に導いてみせる。

ロン・ジチュードの手記より一部抜粋

Commentary

「ドーナツって哲学的だよなあ」と思って、ネットで「ドーナツ 哲学」で検索してみると、意外と同じようなことを考えている人がたくさんいて、びっくりしました。

オスカー・ワイルドの考え方や、ドーナツの穴だけ残して食べる方法など、世の中には様々なドーナツの観察方法があって大変興味深かったです。

とどのつまり、「ああ、みんなドーナツ大好きなんだな」と思いました。