くらげゼリー

Story

 ああ、なんだってこんな暑い夏の日に、お使いなんて頼まなくたっていいのに。
 母から銘菓「くらげゼリー」を買って来るよう頼まれた私は、炎天のもと、住み慣れたこの町の中を1人歩いていた。
 目的地は菓子屋「海月堂」。自宅から歩いて15分程の高台の上にある、老舗和菓子店だ。
 ところが肝心要の海月堂は、「売地」と殴り書きされた看板だけを残して、その姿を跡形もなく消し去っていたのである。
「……大変だ、このままではお使いを遂行できなくなってしまう!」
 そんな困り果てている私を助けてくれたのは、偶然そこに居合わせた、旧友の「エル」であった。
 彼曰く海月堂は、ここから6つも隣にある「蛙の涙駅」へ移転したとのこと。列車に乗って遠出することに躊躇っていた私に、彼は1つの提案をしてくれた。
「もしよろしければ、私がご案内しましょうか?」
 思えば彼のその一言が、大きなきっかけになったのだろう。
 こうして私とエルの、ひと夏の小旅行が始まったのである。

Commentary

空想の世界も何かを媒介にして表現すれば、それはその世界の人にとっての現実になります。現実にはあり得ない光景も、その世界にとっては当たり前の出来事となるのです。

むしろ我々の暮らしているこの世界の方こそ、実は理解の追いつかない、常軌の逸した、荒唐無稽な世界なのかもしれません。
そう考えると一見何でもないようなこの世界にも、「まだまだ面白いことが眠っているのかも」と、思えるから不思議です。

あと、pixivのブックマーク数が2,000を超えたことが嬉しかった!本当にありがとうございます!